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2020-12-03

十二月二日(水) 冬晴に小さく唱ふさやうなら

冬晴れの空と紅葉している木

 よく晴れている。子どもを幼稚園に送っていき、さて洗濯をしようかとぼんやりしていたら、「タビ、昨日の夜に亡くなったって」と夫が言う。

 ついに、と思う。このところ、ずっと調子がわるいと聞いていた。タビはもともと夫が飼っていた十六歳の雌猫で、いまは義父の家で暮らしていたが、わたしもいっしょの時間をたくさん過ごした。たらたらと涙が流れる。兄の猫とともに、赤ちゃんのころからタビを育てた夫は、二匹を飼うと決めたとき、「自分が五十歳になるまで、いっしょにいることになるのか」と思ったそうだ。ほぼ、そのとおりになった。

 夫と義父と火葬場に行く。そこへは数年まえ、ポストという名の雌猫が亡くなったときにも、いっしょに行った。義父の家にはもともと五匹の猫がいたのだが、雄ばかりが残されることになった。道すがら、車中では「いちばん可愛いがっとた猫やったんやけどなぁ」と、義父がなんども言っていた。

 ほんとうに、これが最後という別れのとき、タビの身体や頭を撫ぜる。毛は生きているときと変わらず、ふわふわとしている。小さく、ばいばいと、タビに言った。

 帰りぎわ「よく晴れとるなぁ」と夫が言う。

 わたしはよく、タビの体毛を指で散らして遊んでいた。白い身体に黒い縞模様のある猫なので、くるくると毛を散らしていくと、白い花がぱっと咲いたようになる。空を見あげると、そのときみたいに毛をふわふわと散らしたかたちの雲が、何個か浮かんでいた。うそみたいな、ほんとうのこともあるものだと思い、黙ったままずっと雲を見ていた。 

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